『虚空の旅人』

虚空の旅人 (新潮文庫) 上橋菜穂子 (新潮社 新潮文庫
隣国サンガル王国の新王即位の儀式に参列するためにシュガと共に彼の地へと赴くチャグム。そこで彼は<ナユグ>に魂を奪われた少女と出会い、過去の自身の出来事から彼女を助けたいと考え始める。一方で海運国であるサンガルの数ある島々の片隅で不穏な空気が漂い始めていた。鍵を握る少女スリナァは王都を目指して船を奔らせる…!


<守り人>シリーズの外伝的位置づけの<旅人>シリーズ、その一。
精霊の守り人』から3年。14歳になったチャグムが主役の物語。もともとの性格もあるのだろうが、過去の経験から人格者としての魅力を発揮する彼。シュガとのコンビも良い。若い二人が周辺諸国の人々と面識を持つことで、次代の担い手として認識されて行く様がいいな。


そして今回は国家間の政治や情報戦が描かれる。バルサが主役ではなかなかこういった話は書き難いのだろう。そういった点で皇太子であるチャグムの出番だし、サンガルの、多くの島々からなり各島の代表の思惑と王家への思いといった、国としての成り立ちの設定は、今回の話を書くのに適している、と思う。さらにはサンガル王族の為政者としては当たり前なのかもしれないが、その非情さとチャグムの青臭いのかもしれないが、真っ直ぐな心優しさとの対比。大変面白かった。願わくは彼の清い魂の、その輝きが失われんことを。