『煙か土か食い物』

 煙か土か食い物 (講談社文庫) 舞城王太郎 (講談社 講談社文庫)

噂の舞城王太郎、初読。噂どおりにスピード感のある文体。しかしその実態は、極度に省かれた句読点ゆえ。しかしながら、感情のままに突き進む主人公の内面を語る上では、そのスピード感は大いに成功していると思う。


アメリカで外科医に就く奈津川四郎のもとに、日本から知らせが届く。彼の母親が後頭部を殴打され、意識不明らしい。そして日本に帰った彼にその事件の異常性が知らされる。曰く、彼の故郷では連続主婦殴打事件が起こっており、彼の母親もその被害者である。そして被害者は例外なく、生きたまま土の中に埋められていた…。復讐心に燃える四郎は、犯人探しに乗り出す。


事件のトリック自体はアッという間に解明されてしまうので、謎解きを楽しむというのとはちょっと違う。何よりもこの作品が伝えたいのは「家族愛」ではなかろうか。感情のままに行動し暴力も厭わない四郎だが、家族に対しては憎しみを抱きつつも「愛してる」と堂々と言えるのだから。兄との殴り合いでそういったことを実感してしまう辺りが、今どき珍しくて面白いけど。
とにかく<奈津川家サーガ>の第1巻、楽しませてもらいました。次巻も楽しみ。