『月の裏側』

月の裏側 (幻冬舎文庫) 恩田陸 (幻冬社 幻冬社文庫)
九州の水郷都市、箭納倉。この地で三件の老女失踪事件が起こる。しかし数日後にひょっこりと戻って来た彼女たちにその間の記憶はなかった。単なる迷子なのか、何らかの事件に巻き込まれたのか、それとも…?事件に興味を持った元大学教授、三隅に招かれ、塚崎は今、箭納倉駅に降り立つ。

主人公、塚崎多聞のキャラクターが良い。飄々としており、でもどこか鋭い部分を持つ謎の人物。彼はこの事件に関わることで何を感じ、何を得たのか。そしてその他の人々は?日本の、世界の今後の動向は?しかし、物語は地方都市、箭納倉の中だけで完結する。この”地方都市”というのは怖いね。例えばたまに行く親の地元とか。怖いと言うか異質というか。普段の自分の生活空間とは異なった空気、雰囲気というのが感じられるよね。そういう異質さがこの作品で描かれているんだと思う。そして別の異質さも。ネタバレになるのであまり書けないけれど、キーワードはゴム長靴。この設定がちょっと笑いを誘う。でも案外ここぞという時に役に立つのは何でもないものだったりするのかな。