『青空の卵』

青空の卵 (創元推理文庫) 坂木司 (東京創元社 創元推理文庫
幼少時代の傷からひきこもりになった鳥井慎一と親友、坂木司が日常に潜む謎に挑む、読後感のさわやかなミステリ。三部作の第1巻。


ひきこもりとは言え、近所のスーパーに行く事くらいはできるので、むしろ人嫌い、なのらしい。特筆すべきは彼らの友情と坂木の泣き虫っぷり。鳥井は普段は頭の切れる人物なのだが、幼少時代の傷に触れるような事柄や坂木に何かがあると、突如として子供に戻ったような素振りをみせ、情緒不安定に陥る。彼は坂木にしか心を開いていないのだ。そしてその坂木も鳥井のためにある程度自由のきく現在の職を選び、毎日彼の元へ通う。彼の目を外の世界へ向けさせる事、そのために街で出会う不思議を彼に語って聞かせる。しかしその反面彼が事件を通じて知り合った人々と親しくなる度に坂木は不安を憶える。鳥井が自分をおいて遠くに行ってしまうのではないかと。そういった相反する感情なんかがすごくよく書けている。


基本的に短編集なのだが、登場人物が使い捨てにならないところも良い。一度登場した人物はほぼ全て後に語られる編に登場するのだ。そういう意味でも彼らの世界はどんどん広がって行く。いつかは鳥井も…。