『石の中の蜘蛛』

石の中の蜘蛛 (集英社文庫) 浅暮三文 (集英社 集英社文庫
交通事故によって異常な程鋭敏な聴覚を手に入れた男。些細な音でさえ視覚的効果を伴って男を悩ます。しかし彼はその超聴覚をもって、転居先の失踪した先の住人の生活痕を探るようになる。いつの間にか彼は過去にその部屋で生活していた女性の虜になり、彼女を探し求める…。


音は彼を苛む。しかしその超聴覚だけが彼の頼り。
部屋の中で過去の住人の生活を推理する様が凄まじい。床や壁を叩くと圧力のかかっていた場所の音が異なって聴こえる。これを頼りに彼女が部屋に帰ってきてからどこをどう歩き、どこへ向かったか、体重はどの程度か、声の質は?等、様々なことを推測してゆく。その過程に興味とそして少しの寒気を憶える。ちょっとしたストーカーだね。


音だけを頼りに一人の人間の生活をそこまで暴く氏の技量に、すごさを感じた。