『アラビアの夜の種族』I、II、III

アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫) アラビアの夜の種族 II (角川文庫) アラビアの夜の種族 III (角川文庫)
古川日出男 (角川書店 角川文庫)
西暦1798年。ナポレオンの侵攻を目前に控えたエジプト、カイロ。時のマムルーク朝は交戦の構えを見せるが、密かに奇策をもってしてナポレオンを撃退する作戦が採られる。その奇策とは読む者を狂気に陥れると言う『災厄の書』。
『災厄の書』作成のために物語り師ズームルッドは夜な夜な語る。古の魔神と契約を果たし、希代の魔術師となったアーダムの話を。捨て子であった自分を育ててくれた里を飛び出し、高位の魔術を求めるファラーの話を。そして王家の血を引きながらも詐欺師に育てられたサフィアーンの話を。
カイロに迫るナポレオン。『災厄の書』は間に合うのか?


本書は『Arabian nightbreed』という書物の和訳であると注釈がうってある。もちろん、それもフィクションな訳だけれど、物語の中に幾重にも物語が入れ子になる構造は面白い。そして文章も雰囲気が出ていて良い。タイトルからわかるように『アラビアン・ナイト』に触発されたであろうことは容易に想像できるが、読む者を狂気に陥れる『災厄の書』という設定がいい。そんなものでホントに敵軍の侵攻を止めることができると信じているのか?と勘ぐってしまうが。しかしながら実際に『災厄の書』の犠牲者は出るわけで…。
とにかく、設定と雰囲気が良かった作品。氏の別の作品を読んだらまた文章とか全然違うんだろうなあ。是非他の物も読んでみたいと思った。


頁をめくる手を止めることの出来ない『災厄の書』。そんな本はこれまでにも何冊かあったな。そんな本と巡り会うことができるのは僥倖だと思う。