『犬は勘定に入れません』

犬は勘定に入れません 上―あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎 (1) (ハヤカワ文庫 SF ウ 12-6) 犬は勘定に入れません 下―あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎 (ハヤカワ文庫 SF ウ 12-7) コニー・ウィリス (早川書房 ハヤカワSF)
時間旅行が可能になり、主に研究目的で使われるようになった未来。オックスフォード大学の史学生ネッドは、第二次大戦中の空襲で焼失したコヴェントリー大聖堂の復元計画に参加していたが、度重なる時間旅行の末に疲労で倒れてしまう。休養のために彼はある指令を帯びて19世紀ヴィクトリア朝時代へと送り出される。それはすぐにでも終わる指令のはずだったが…。


ドゥームズデイ・ブック』の続編。といっても直接的な続編ではなく、設定と一部の登場人物が同じだけで姉妹編といった感じ。あちらは悲壮な感じの話だったのに対して、こちらはコメディタッチ。


そもそもネッド達史学生は大聖堂にあったとされる「主教の鳥株」と呼ばれるものを探すために、計画の責任者であるレイディ・シュラプネルに酷使されていたわけだが、「主教の鳥株」が何なのかわからないのと、ロンドン大空襲とか良く知らないので、初めは物語に入るのに苦労した。どうやらサブタイトル<あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎>にあるように花瓶のことらしい。正確には「鋳鉄脚付台付人獣装飾壷」なんだそうな。下巻1/3程でようやく判明するもなんだかよくわからん名前。登場人物達が口を揃えて(一人を除く)「酷い」と言うのもなんとなく頷ける…か。


登場人物は相変わらずキャラが立っていてハチャメチャな人が多い。レイディ・シュラプネルは『航路』のMr.マンドレイクを彷彿とさせるし、19世紀で出会うテレンスは一目惚れした女性の事しか考えていない。ペディック教授は自分の興味のあることにしか目に入らず、事ある毎にネッドらの邪魔をする。まさに愉快な3人の川下り。そして忘れてならない名傍役が犬のシリル。何とも愛らしい。勘定に入れてやらないなんて可哀想だ。


しかしこういうタイムトラベルものを読むと気になるのが「時空連続体の意思」。歴史の改変を嫌い、時間そのものが何らかの干渉を行い歴史を元に戻すというもの。本作では時空連続体はカオス系であるとし、無限とも思える可能性の中から歴史に与える影響が最小限の物を選択して、数百年にわたり齟齬を修復している。今併読してる『紫色のクオリア』に記述のあったフェルマーの原理を思い出した。二点間の最短距離を辿る光は、それ以外の無数の経路も辿るがそれらは打ち消しあって最終的に最短距離のものだけが残るとかなんとか。物理は苦手なので付け焼き刃な知識。


うーん。作中の無数の引用元を読むのも含めて再読したい作品。