『紫色のクオリア』

紫色のクオリア (電撃文庫) うえお久光 (メディアワークス 電撃文庫
毬井ゆかりには自分以外の生物(人間も含む)がロボットに見える。そんな彼女の秘密を知る数少ない友人、波濤マナブが語る彼女と自身の物語。


設定と表紙からして不思議系少女を巡るライトノベルか、なんて思ってしまうが、これが実はとんでもない作品。ライトノベルの皮を被った本格SF。第1章は普通のライトノベル的だが、第2章からガラッと変わる。


誰しも他人の見ている世界なんて理解できない。「同じように見えているに違いない」という暗黙の了解だけで他人と会話し、理解し合う。しかも理解できたと感じているだけなのかもしれない。しかし逆に言えば「違う見え方」=一種のクオリア、は確立されたアイデンティティである。皆、違う見え方感じ方をするから、違う考え方を持つ訳で。そういったこと論じるための極端な設定が「生物がロボットに見える」という「見え方」か。
こういったアイデンティティをテーマに据えたり、「万物の理論」「量子論」といったキーワードを出す辺り、イーガン的。まあ、人気のある作家だからな。この前も日経サイエンスを読んでた奥さんが「グレッグ・イーガンて知ってる?」とか訊いてきたし。それだけポピュラーでもあるということか。


いささか極端な基本設定は置いておいて、大変面白かった。書き方を変えれば普通のSF者にも幅広く読まれそうなのが惜しいところだが、実際のところはライトノベルのレーベルで出すことで取っ付き易くなっているのかもしれないな。