『虐殺器官』

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA) 伊藤計劃早川書房 ハヤカワJA)
米国軍特殊部隊に属するクラヴィス・シェパード。彼の部隊は紛争地域に潜入し、その紛争の原因となる人物の速やかな暗殺を目的とする。そんなエリート部隊の彼らが唯一作戦に失敗し逃がした標的、ジョン・ポール。世界各地の紛争に関わる彼を追い、シェパードは作戦に参加し続ける…。


紛争、虐殺といったことを扱い、衝撃的な描写もあるものの、一人称が「ぼく」の内省的な主人公のおかげでそれ程殺伐とした印象は受けない。どうしてもこういう話って一人称が「俺」になりがちなので、そこが読んでて新鮮。
そして度々話題に上る映画や小説等の文化、実際に起こった事件などが、この作品の舞台が私たちのこの世界と地続きであると思わせる。それが作品世界をリアルに感じさせてくれる。


自分の守るもののためにそれらを脅かす可能性のあるものを排除する、それも徹底的に、というやり方には今イチ賛同はできないものの、物語として面白かったし、虐殺を起こすための器官というアイデアも良かった。


しかしこの人の作品を後数冊しか読めないのかと思うと寂しい。
「死」をテーマの一つとして扱っているこの作品を、彼はどのような想いで書いたのだろうか。これが書かれた当時の彼の状況を知ってしまうと、そう思う。