『エロス』

広瀬正・小説全集・3 エロス (集英社文庫) 広瀬正 (集英社 集英社文庫
歌手橘百合子として芸能界で成功した赤井みつ子。芸能生活37周年のリサイタルに向けたある日、ふとしたきっかけで「もしあの時歌手になっていなかったら…」という自分の人生を想像し始める。


全然エロくないです。念のため。


『マイナス・ゼロ』を読んだのはもう、十数年前。それ以来の広瀬氏の作品。
緻密なディティールによって描かれた昭和初期の風景。近代日本史には疎い私でも簡単にイメージができてしまう。そんな古き良き時代を舞台にした「現在につながる過去」と「あり得たかもしれないもう一つの過去」。しかし量を割いて語られるのは「あり得たかもしれないもう一つの過去」の方で、細かく語られる歴史的事件や世間の風習などのおかげで、こちらの過去のほうがホントに起こった彼女達の人生の物語なのではないかと錯覚してしまうほど。そしてその錯覚はラストにまで続き……。
あまりの流れの上手さに終章を軽く読み進めてしまったが、読み終わってから「アレ?」となり、もう一度読む始末。


てゆーか、『マイナス・ゼロ』ともちょっとした関連があるんだね。全然気がつかなかった。まあ十数年前のことだから致し方ないかと。


NHKの朝の連ドラとか、昭和の偉人伝とか、そんなのを読んだような気分。それだけ多くの情報をもってして濃密に描かれてた。大変面白かった。