『ゴールデンスランバー』

ゴールデンスランバー (新潮文庫) 伊坂幸太郎 (新潮社 新潮文庫
地元仙台でパレードを行う首相が何者かによって暗殺される。その日のうちに容疑者として名前が挙がったのが青柳雅春。しかし彼にはそんな記憶は全くない。濡れ衣を着せられ、巨大な組織から彼は逃走を開始する。


映画を先に観てからの読了。
なるほど、映画はよく作ってあるわ。登場人物もほぼイメージ通り。
しかし映像よりも文章で書かれている方が場所の特定がし易い。「あ、結構家の近所」とか、「ああ、あの辺ねー」なんて思うのでそういう楽しみもアリ。


しかしこんな理不尽に濡れ衣を着せられての逃亡劇なんて、書き方によってはものすごく悲惨なものになりそうなのに、やっぱり氏の作品は違うよな。いろんな証拠が捏造されて完全に包囲されてるのに、出会う人達があっさり無実であることを看過してしまうところとか(単に青柳がいい人だからか?)、学生時代の逸話がカットインされることとか。そういったひとつひとつのエピソードが温かく懐かしいような、でもその分切ないような、そんな気分にさせられる。


印象深い人物は数多く出てくるけれど、中でもいいのがキルオとお父さん。多くの人が青柳を助けてくれて、それらの人々は「陽」な援助なんだけど、手助けの動機が良くわからないキルオは「陰」。どうしようもなくなった時に違法手段で救ってくれる。だから、その分味のある人物。
そしてお父さん。『重力ピエロ』もそうなんだけど、氏の作品にはかっこいいお父さんが良く出てくるんだ。


それにしても別れて何年にもなる彼女が今でも同じようなことを連想してくれると思う?