『精霊の守り人』

精霊の守り人 (新潮文庫) 上橋菜穂子 (新潮社 新潮文庫
女用心棒バルサは橋から転落した皇国の第二皇子チャグムを、偶然助ける。それをきっかけに皇妃からチャグムに関する良からぬ策謀を聞かされ、彼の護衛を引き受けることになるが…。


児童文学という括りではあるが、大人が読んでももちろん十分楽しめる。それは主人公を始め、ほとんどの登場人物が大人であるため。そして十分に確立された世界観のため、だと思う。著者自身も特に子供向けだと意識して書いたわけではないということだし。


眼に見える現実の世界<サグ>と、呪術師などの特別な力を持つ人にしか見ることのできない精霊の世界<ナユグ>。同じ場所、時に重なり合って存在する2つの世界は稀に干渉し合う。
<ナユグ>の精霊<ニュンガ・ロ・イム>は<サグ>の子供に卵を産みつける。それが無事に孵り、水の守り手である<ニュンガ・ロ・イム>が成長しなければ、世は大旱魃に見舞われてしまうのだが、その卵を補食する<ラルンガ>も存在する。そんな事態に巻き込まれたバルサたちの、彼らを狙う皇国の追手からの逃避行と、アクション。そして<ニュンガ・ロ・イム>に関する事柄を調べる呪術師たち。…展開はスピーディで読んでいて飽きることが無い。そして祭りや儀式に込められた意味を含め、きちんと構築された世界に魅了される。


しかし、<ニュンガ・ロ・イム>に卵を産みつけられた<ニュンガ・ロ・チャガ>(精霊の守り人)の取る行動が、ハリガネムシに寄生されたカマキリを連想させる…。