『誰か』

誰か―Somebody (文春文庫) 宮部みゆき (文芸春秋社 文春文庫)
大会社会長の娘と結婚し、今はその広報室に身を置く杉村三郎。ある日彼は舅である会長から、先日事故死した彼のお抱え運転手の娘達の願いを訊いてくれないかと頼まれる。件の運転手は自転車に撥ねられ、頭の打ち所が悪かったために死亡したのだが、その犯人は未だ見つかっていない。そこで彼女らは父親の思い出を綴った本を出すことで犯人を見つけ出すキッカケになれば、と考えているらしい。杉村は彼女達の願いを叶えるべく、運転手の死の状況について調べ始める…。


久しぶりの宮部作品。
今はもう亡き人物の過去を調べてその人物を記述するという手法は、設定は違えど『火車』を思い出させる。あとは浅暮三文氏の『石の中の蜘蛛』かな。しかしこれら2冊に比べると少々パンチは弱い。運転手氏の過去になにやら後ろ暗い部分があることが仄めかされてはいるが、過去を調べる動機にそれほど事件性がないので緊張感に欠けるというのが理由かもしれない。
しかし調査の過程で彼ら家族の過去、そして現在において明らかになる秘密。


人間というのは身勝手な生き物なんだよな。自分たちの勝手な思いで他人を判断し、あまつさえ的外れな非難さえする。恥の上塗りもいいところだ。唯一救われるのは主人公である杉村の家族が暖かいことか。穏やかな性格の杉村自身も良いし、義父との微妙な関係も面白いところ。


名もなき毒』でも彼が主役として活躍するということで、そちらのほうも楽しみだ。