『ポーの話』

ポーの話 (新潮文庫) いしいしんじ (新潮社 新潮文庫
黒い泥の流れる川。そこでうなぎを獲るうなぎ女から、ポーは泥の中に産み落とされた。泥の中を自在に泳ぎ回るポーはうなぎ女たちから母親の愛情を受け、成長する。そんなある日、街を500年に一度の大雨が襲い、ポーは住み慣れた街から下流へと流されてしまう…。


生まれてから友達も持たず、人付き合いといえば母親たちだけ。そんなポーは良く言えば純真無垢、悪く言えば常識に欠けた世間知らず。彼は路面電車の運転士であるメリーゴーランド出会い、彼の副業である盗みと罪悪感を憶える。そしてつぐないという概念も。
下流へと川を下る過程で様々な人に出会う。湿地帯に住む老猟師と少年。人をこき使い、広野に廃棄物を捨てる埋め屋と、鳩レースのために鳩を飼うその巨漢妻。そして河口の寂れた老人たちの住む漁師町。そこここでいろいろな経験をしたポーが辿りついた場所、思いは?


氏の作品は寓話的だ。舞台は童話にでも登場しそうな街や村。しかしそこに住む人々は善くも悪くもものすごく人間的。そんな世界だからこそ、主人公の純粋さや一途さが際立つのだろうか。ポーや『麦踏みクーツェ』のぼく。そして未読だけれどおそらく『トリツカレ男』の主人公も。


全ては川から生まれ、海に流れ、空に上がった後また川へと戻る。ポーは海へ流れ着き、自分の奥深くに眠るつぐないの方法を見つける。そして白い鳩は川へ舞い降りまた新たなポーが生まれる。そうやってうなぎ女たちは川を、海を、ひいては世界を守っているんだろうか。でも川の流れのままに、フッフッ、と彼女たちは笑うだけなんだろうな。